閑話 〜なんでだろ?
 



 今日は平日ながら、講義もなければ部活もない、久し振りのまるまる1日中お休みの日で。しかもこれまたどういう偶然か、U大アメフト部も監督さんとコーチさんたちとが協会の合同研修会があるとかで、自主トレモードになったそうで。
『そりゃあ“グランドクロス”ばりの奇遇だな。』
 休みにするぞという連絡網の途中で、うわぁって思ってつい話したら、蛭魔さんがそう言ってましたと進さんへと言ったらば、
「???」
 意味が通じなかったみたいで。
「グランドクロスとは何だ?」
「あ、えとえっと。太陽系の惑星が、一直線上に並ぶことをそう言うんです。」
 説明すると、男臭いお顔を仄かに感慨深げな表情で満たしつつ、
「小早川は何でも知っているのだな。」
 またまた感心されてしまったので。うっとうっと…、実はその。/////// 真っ赤になった瀬那くん、
「あのその、実はボクも蛭魔さんに訊いたんですよう。////////
 そしたら『“トゥーム・レイダー”って映画に出て来たぞ』って、確かお前ら、二人で観に行ったって言ってなかったか?って言われましたと、そこは正直に白状しちゃったの。進さんは一瞬だけ深色の眸を瞬かせ、それからそれから“くすり…”と、何とも言えない奥深い微笑い方をしてくれて。優しくって温かい微笑い方、ああやっぱり素敵だなぁって、ほや〜〜〜って見とれちゃったセナの髪を、ぽふぽふって、大きな手のひらで撫でてくれたのだけれども。…で、それがどうしたのかと言えば。その“グランドクロス”という現象は、なんと五千年に一回という周期で起きるのだそうで、さすがは宇宙規模のお話で…まま、それはさておいて。
『それじゃあ、今日はウチへおいでになりませんか?』
 ボクにとってそうであるように、進さんにだって…この秋のハードな大会の最中に出来たせっかくのお休み。自主トレをなさってからは、じっくりと体を休めた方がいいっていうのは重々分かっているのだけれど。けれどやっぱり、あのあのね? せっかくご近所においでなのになって思ったら、そこはやっぱりお逢いしたくて。それで“えいっ”て訊いてみたらば、構わないぞと応じてくれたのでvv 今日はセナくん、お家への久々のご招待だと、朝から気張っておりまして。
“…あ、いっけない。コーヒー用のブラウンシュガーがないや。”
 進さん、実は最近になって、コーヒーには1匙だけお砂糖を入れるようになった。刺激が強い飲み物だからということと、多少は糖分も摂取しないと、頭脳へは果糖しか巡らないのでリラックス効果が随分と削がれてしまうのだそうで。………でもね、後になって桜庭さんがこんなことも言ってたの。
『ああ、それね。僕もびっくりしちゃったよ♪ そんなすぐに実行しようとはねってvv
『………はい?』
 たまたま一緒にいた…というか、お忍びでR大へいらしてた桜庭さんだったんだので。すぐ傍にいた蛭魔さんが、ほほォと眉を顰めつつ、
『どういう含みのある言いようだそりゃあ?』
と絞め上げ…もとえ、訊き出して下さったのによれば、
『だからサ。恋人が、お酒やコーヒー、苦いのや辛いのが苦手だったなら、口にしたすぐ後にキスとかしたらつらい想いをさせちゃって可哀想じゃないかって話をね。』
 僕の場合は妖一が辛いの平気だから大丈夫だけどって、単にのろけただけなんだけどと、要らんことを付け足したのへ、
『そうだよな、お前が甘い甘いキャラメル味のソフトクリーム舐めた後でも、我慢してやったし。』
『あっあっ、ごめんなさ〜いっっ。』
 後輩さんを前にして、結局は“のろけ合戦”になってませんか、お二人さん。
(苦笑)

  “それって、あのその………進さんも? ////////

 桜庭さんのお言いようを真に受けたんだということなのかな? そうと判ったその途端、真っ赤っ赤〜〜〜っになってたセナくんには、届いてなかったようだから、蛭魔さんの“ついうっかり”もカウントされなくて良かった良かっただったのですが。
(苦笑)
「お砂糖と、あ、そうだ。月刊アメフトも♪」
 そうそう忘れてたと、ブランチの準備を確かめながら、お財布と携帯とを手に近所のコンビニまで出向くことにする。お昼にはおいでの進さんとすれ違っちゃわないようにと、迷う間もなくのダッシュ一番、お家を飛び出したセナくんでしたが。秋めいてきた淡い金色の陽射が振り落ちる、それは穏やかな陽だまりの中であれ、
「………。」
 自分へ向けてまっしぐらしてくるランニングバッカーさんを見かけて、体が動かぬほど錆びついてた誰かさんではなかったようで。住宅街の端っこ辺り、角地に建ってるコンビニの手前、出合い頭となりかかったところを、
「…っ。」
「わっ☆」
 さすがに、ごききっと指を鳴らしてまでではなかったものの、ザッと伸ばされた頼もしい腕が、大きな手が、そりゃあお見事に小さな韋駄天くんを捕まえており。
「どうした。火急か?」
 突然現れた大好きな人。懐ろまで引き寄せられたそのまま、そんなことを真顔で訊かれては。
「いや、あの、そのその。/////////
 セナくん、そのまま蕩けてしまいそうなほど、お顔が真っ赤になるばかり。…って、おいおい、あんたたち。いくら住宅街とは言っても平日の昼間っから往来で何してますやら。天然さではどっちもどっち、相変わらずにお揃いなお二人さんである模様でございまして。
(苦笑) お買い物に出て来ただけですと、何とか説明したそのまんま、二人揃ってコンビニへ。雑誌のラックでアメフト専門誌を手にし、
「えっと…お砂糖は、と。」
 棚を眺めて探すこと数刻。目的のブラウンシュガーを見つけたセナくん、
“おやや?”
 すぐお隣りにあった別の商品に、ふと視線が行ったのは、意外なところに顔見知りお見かけたからで。シックなチャコールの色調でまとめた紙箱のパッケージのそれは、新製品のホットケーキミックスだったのだが、箱の下半分の方、輝くほどの笑顔でもって、某アイドルさんが笑っている写真が印刷されている。
“こんな商品のCMもなさってるんだ。…あ、ポストカードがついてる。”
 肝心な恋人さんから“俺は甘いものが苦手だってのにどうしてくれようか”というような、お惚気と紙一重の文句を言われてた、亜麻色の髪のアイドルさん。バーコードを集めて送れば、特製クオカードが当たるよなんて、新発売キャンペーンもなさってて。最近の女性の甘いもの離れを制するのにも一役買っていらっしゃる模様。裏を返して作り方なぞ眺めていたセナだったが、

  「………………。」

 どういう訳だか、動かなくなった彼であり。
「…小早川?」
 そんなに魅力的な焼き菓子なのかなと、小さなカレ氏を惹きつけてやまないらしきパッケージを、そこに印刷された顔見知りごと…こちらさんは少々敵愾心込みな眼差しにて、見やってしまったお不動様であったのだけれど。
「…あのあの。これってどういうことなのかなと思いまして。」
 セナくんが小首を傾げてながら示したのが、裏面の作り方の記述の一番最初。

  ――― ボールに本品の半分(255g)を入れ、
       水 108cc、牛乳 96gを加えて良く混ぜます。

 小さめの両手で箱の両端をもって、見やすいようにと真正面へ掲げていたセナと向かい合い、顎に手を添え、指定された箇所をただただ黙々と読んでいた進さんはというと、

  「…何か訝
おかしいのか?」
  「いやあの、えっと。」

 ああそうだった。この人にかかっては…たとえ料理する趣味があったとて、案外、不審でも何でもないことなのかも………。





  ここで問題です。
  この、ただ今 新発売キャンペーン中、桜庭くんのポストカード付き、
  『ホットケーキミックス・エクセレント』の作り方。
  一体どこが“???”だったのでしょうか?


   「一体どこの“こだわりシェフ”の推奨配合なんだ、こりゃ。」
   「さあ、僕もそこまでは聞いてないんだけれど。」
   「これでは“簡単に作れる”とは言えないような…。」
   「だが、こうまで正確な数値が書いてあるというのは、
    素人への指導としてはたいそう親切なことなのではないのか?」



 このお話を思いついた切っ掛けが、筆者がよく使ってる“タコ焼きの素”の作り方の説明書きだったことは、ここだけの話でございます。
(苦笑)




  〜Fine〜  05.10.01.


  *初年度は結構こういう小ネタものもUPしてたのですが、
   Web拍手のお礼へ回すようになっちゃいましたので、
   お久し振りだなぁという感じでしょうかvv


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